「誠二からアークなら大丈夫と聞いてたのだが…VRゲームのやりすぎでおかしくなっとるのとちゃうのか?」
ワールドシリーズでのルーブは途中から調子を崩し…なんと打たれ始めていた。
ん?うるさいな?何かどこかの私立探偵の名前が聞こえたような…
いや、そんなことよりも今日でワールドシリーズが決まるからね。
ちゃんと監督として綿密な作戦を…
しかしギルガメッシュのトリデオにうつされているシアトルマリナーズのホーム球場、Tモバイルパークでの試合中継ではマリナーズとジャイアンツは2-2。
9回裏ジャイアンツの攻撃だ。
更に解説しておくとマリナーズが3回先取したが今度はジャイアンに2回取られている。
この試合マリナーズが勝てば優勝。負ければ最終戦にもつれ込むというわけ。
「何という事だ!マリナーズのピンチを救える救世主だと思っておったのに!!これじゃあマリナーズもお終いだ!!」
マリナーズがお終い!?
現実に引き戻された僕はトドのような声の持ち主に返事をする。
「あぁ…トルネロさん。何か用ですか」
でっぷり太った…トドのような男が目の前に居た。
「何か用ですか?だと?アークお前!わしの話を聞いとったのか?」
思索に耽っていて聞いてませんでした。
とはいいにくい。
適当に言葉を濁していると…
「まぁ良い。もう一度説明しようじゃあないか!誠二の馬鹿がな、12歳くらいのエルフの美少女との痴情のもつれの末、メイドに無理心中図られて入院しとってな。本当にあいつのエルフ好きには困ったもんだ!!で、誠二に相談しにいったらアークで無理なら俺でも無理だろうからアークにやらせとけというもんだでこの話をもってきたんだ!」
成程。
入院理由が馬鹿なあの人らしい。
しかしアークで無理なら俺でも無理…当然だね!
というか何も本題に入ってないじゃないか!
鋭く僕はそれを指摘する。
後、もう少し声量と飛ばす唾の量をかなり減らすようにも付け加えておく。
(2アウト!)
トリデオから聞こえてきた2アウトの声。
よし!ここで勝てばマリナーズの優勝が決まる!
まぁ僕の立てた作戦通りリードしていればこのまま三振を…やはり決め球にシンカーだろう。
解っていても打てないから魔術師の異名を…
「おぉ!そうじゃった!実はな!マリナーズの件なんだが…」
マリナーズだって?思考を中断して身を乗り出した僕。
するとここで声を落としてこちらの反応を見る。
そうだったこーゆーおっさんだった。
あーもう!トリデオも気になるがこのおっさんの話も気になる。
「ちょっとはわしの話を聞く気になったようじゃな。マリナーズが今ワールドシリーズを戦っておることは知っておるだろう。で、ルーブ・マーティンに八百長疑惑が出ておる。明日の試合までに調べてほしいということだ。報酬は5000新円」
ルーブが八百長!?するわけないだろう!!
頭に来た僕はトルネロのコムを破壊してやろうかと思ったが…まぁ辞めておこう。
「ちょっと待て!わしが言っとるわけじゃないぞ!!」
そもそも今している試合をマリナーズが勝てば優勝じゃないですか。
そんな調査必要が…そう言いつつトリデオに視線を移す。
ルーブの視点から球が投げられた瞬間、バッター…ジャイアンツの4番ベイブ・ロスの視点に切り替わる。
シンカーが物凄い速さで飛んで来て変化する!
これがサムライなら変化の甘さやら凄さなんやら解るのかもしれないが…リグでもしてないと僕には解らない!
だがこれで決まり!マリナーズ優勝おめでとう!!
流石カール監督!僕と同じリードとはすばらしい!
と、祈りにも似た思いを抱いていたら…
アナウンサーの
(おおっと!変化が甘い!!どうしたルーブ!!)
という絶叫が聞こえてくる。
ベイブもシンカーをバットの芯で捕らえると良い音をさせて場外へとボールを叩き出した。
スタンドからあがる悲鳴。
僕も力なく椅子へと崩れ落ちる。
あーもぅ。
今までの試合でもシンカーを狙い打たれてきていたんだからシンカーを決め球にリードしちゃいけないことくらいカール監督にはわからないのか?
僕が監督ならあそこはカーブで…いや、もう終わったことだ。
「どうやらお前の力がマリナーズには必要なようだな。この試合には多くの新円が動いとる。お前の働きには大勢の人間の運命がかかっちょるというわけだ!責任重大だぞアーク!」
トルネロがニヤリと笑って言ってきた。
(どうやらワールドシリーズは明日にもつれ込む模様です。果たして勝つのはどちらか!)
アナウンサーのそんな声を聴き流しながら僕は解ったと返事をしていた。
仕方ない、八百長疑惑を晴らしてさっさと最終戦に集中しなくちゃね。
上手くすればルーブのサインを貰えるかもしれない訳だし。